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2012年05月11日

福島辰夫写真評論集3巻『破綻と彷徨』

不肖ながらわたしが総編集しました福島辰夫写真評論集の最終巻3巻『破綻と彷徨』(窓社)が刊行されました。

3巻の内容は
一章「東松照明」(1978年「特集フォトアート」掲載)
二章「破綻と彷徨」(1974年「特集フォトアート」掲載)
@時を越えた〈実人生の質〉A高野直太郎B安井仲治C中山岩太D野島康三E北海道初期写真群ー田本研造とその他ー
巻末に「あとがき」と「福島辰夫執筆歴」を収載しました。
アマゾンなどでもご注文頂けます。ぜひお読み下さい。

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本書は安井仲治、中山岩太ら戦前戦中の作家を日本で本格的に調査研究したほとんど最初のテキスト群「破綻と彷徨」を中心に構成しています。当時福島氏はアノニマス(=埋もれた、無名の)という写真のあり方について関心をもたれ、まだ本格的な写真の調査方法も確立される前の(といっていいと思いますが)時代に丹念に取材し書かれました。このアノニマスということは東松照明さんもかつて使われたこのとのある言葉です。日本の写真において(といういい方がもしもできるとするならば)、恐らく(今日にいたるまで)重要なキーワードではないかと思います。

本書に書かれた作家は最低最悪の時代の現実のなかで、閉塞に飲み込まれることなく、渾身の力でそれと向き合い、優れた仕事を残しました。福島氏は単に「昔の作家だから」とか「当時としては斬新」といった当時の評価を批判し、彼等がどのような現実と向き合うなかから生まれたのか、それがどれほどの困難を伴うことであったかを丹念に検証しています。

まだ日本に写真の美術館、大学などの研究機関もほとんどない頃の貴重な仕事です。
多くの作家は、その後も研究者によって研究され続けています。例えば安井仲治は2004年に「生誕百年安井仲治ー写真のすべて」(渋谷区松濤美術館、名古屋市美術館)図録に、中山岩太は2003年に写真集「中山岩太」(淡交社)にそのほとんどすべてを詳細なデータとともにまとめられました。それらと福島氏による1974年「」特集フォトアート」誌初出では、写真の向きやトリミング、タイトル、制作年、生前発表未発表など、異なる点が随所にあります。この40年にご遺族も研究者も代替わりされてる例もあります。本書はそれら研究の変遷も鑑みて、一部の作家については各時代の情報の併記し、また関係者のご理解を得て他ではみられない1974年「特集フォトアート」掲載の貴重な図版も数多く再掲載しました。写真点数144点。写真の強さが際立った1冊です。
福島辰夫さんは本年の日本写真協会功労賞に選ばれました。

投稿者 Ken Kitano : 09:16