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2003年11月20日
・「カイエ・ソバージュ」中沢新一著/講談社選書メチエ
・「カイエ・ソバージュ」中沢新一著/講談社選書メチエ
大学の「比較宗教論」の講義を本にまとめた全5冊のシリーズ。先に読んだ2巻「熊から王へ」、3巻「愛と経済のロゴス」がとっても面白くてアマゾンでさらに2冊注文してしまった。1巻「人類最古の哲学」は神話学の講義。人類最古の哲学としての神話を優しい言葉で語りかけてくれる本。神話というと古事記、日本書紀の記紀神話を思い浮かべる。記紀神話は政治的意図をもって編纂されたっため、各地のローカルな神話を無理やりにつなげて大きな物語にした政治的な側面があるから、実際読みにくいし少々敬遠していた。しかしこの本を読んで神話に対する考え方が180度変わってしまった。権力者が用意した物語として読んでも面白くないわけだ。神話は世界中に分布する「竹取物語」や「シンデレラ」などが語るのは、私たちと死者や異界とのコミニケーションであったり、ヒエラルキーの上と下、異界と私たちとの仲介者の存在だったりする。そうやって読むと神話はとても豊かなことを語りかけてくれる。
神話が好んで語るのは「内側と外側がすんなりひとつにつながってしまう場所だとか、動物と人間のように今別々の存在になってしまっているものたちが同じ生き物であったときのことだとか、いまいる場所がとてつもなく遠いところの異界にくっついてしまう奇妙な特異点・・」。ちなみに記紀神話のなかにはニニギノミコトとコノハナサクヤヒメのくだりなど、新石器時代からの古い来歴の神話がたくさんあり、それらはアマゾン川流域の先住民の語り続けてきた神話とそっくりな神話も多いそうだ。 本書の中で数多くの例の中で、取り分け北米インデアンの語るシンデレラは感動的。
・「家族」北朝鮮による拉致被害者家族連絡会著/光文社
何度も泣いてしまった。長年にわたるご家族のご苦労、無念さは想像を絶するが、もうひとつ深いとことで感じたのは拉致事件が起きはじめた60年代、70年代という時代の空気の荒涼とした乾いた肌触り。貧しさと疾走する人々の背中。今も日本はちっとも「個人」なんてもてていないし近代社会として未成熟なのだろうが、今よりもずっと「個人」なんてなかったんだなということ。人々が「個人」(例え失踪した近く「個人」であっても)を理解も感じることもできなかった時代にましてや政治家に「個人」が考えられるわけがない。
現在も継続中の悲劇。痛い。とにかく痛い。こんなに長い時間何やって来たんだよって思う。
以前の私だったら「家族」のことに涙が出ることはなかっただろう。
投稿者 Ken Kitano : 2003年11月20日 22:13